三浦 しをん:著
たまには「そこそこなんだけど、いまいちだなぁ」なんて本も(いやこういうの書かなくて良いとは思うんだけど、こういう本はあんまり紹介しないと思うって宣言的なのも含めて)。
ストーリーはこうです。定年を控えた職人気質の辞書編集者が登場、そして彼が企画、立案した新しい中型の国語辞書(いわゆる広辞苑サイズ)を作り上げるため、社内で後継者探し→目をつけたのは、すっとぼけすぎて営業部ではお荷物となっている社員→そんなすっとぼけ社員が辞書作りで意外な才能を発揮し、職人編集者がみっちりと教え込み……。
サラっと書きましたが、そんなお話。
辞書編集という仕事そのものに興味をそそられ、わりといろんな書評でも評判良かったので読んでみようと(たしか、同じ日に買ったのが木内昇の名作『笑い三年、泣き三ヶ月。』だったのもあれだったな)。
で、たしかに話のはこびは面白いし、スルスルと読めてしまう文章なのだけど、なんだか僕にはなんとも味気がなくて……言ってしまえば、よくありがちな“珍しい職業の裏側”と”ラヴコメ”を合体させた仕事系マンガを読んでいるようで(逆に言えば、そういったマンガ好きが小説の入り口として読むには良いのかもしれません)。
まず、とにかく、登場人物たちは癖があるようであまり癖が無く、屈託というか葛藤があまり見えない。そう、主人公のおとぼけ社員をとりまく状況に関してもなんだかスルスルと進みすぎて、予想通りの展開というか。だから「え! それどういうこと?」と思って読みたくなるようなところがない。例えばですよ、主人公のおとぼけっぷりがあまりにも逸脱しすぎてて、どうしょうもないジミー大西レベルなんだけど、なぜか周りの人間が愛着を持って助けてしまうとかいう話ならまだアレですが、この主人公、仕事も恋愛も「かわいい」程度のおとぼけ&正直な部分が魅力となって、うまく成功する方向へと回ってしまうわけで、まぁ、そのあたりもラヴコメ漫画感があるんですね。
辞書編集という途方もない大事業に関するいろいろも描かれてるんで、その部分を満たそうと思って買ったという点ではアリなんですが。
あとは、辞書なんてものは1年やそこいらでできるものではないので、話のなかでは結構な月日が流れます。でも、それがかなりサラっとスキップして流れていくんですね。時に重みがないっていうのは、怖いですねぇ。サラっていうのは、なんて言えばいんでしょう。例えば、スキップしたあとの時代に「え、前の時代に書いてないけど、この人、この間にどうなったの?」的な良い意味での話を読ませるトリックも無く、あったとしても速攻で説明され回収されていくというのが続いていくんでありますですよ。「こいつアレかな?」と思って、読み進めたら「えええ、アレでもないんだ!」とかではなく、「ああ、やっぱりそうか」ってな納得具合です。逆に言えば、そういった仕掛けなしに読ませるという意味ではエンターテインメントとしての文章の力というのはあるのではないでしょうか。
って奥付見たら『CLASSY』の連載小説でやんの。
おしゃれOLターゲットの小説を100キロ前後30歳彼女なしなんてのが読んだらいけませんね。
いや、でも本当にサラっと読ませてしまうようなうまさはあると思うので、とりあえず小説なんて読んだことない、なんて人にはおすすめと言えばおすすめです。『CLASSY』がいきなり最初から『紙の民』読んで大号泣とか、そりゃ僕だって嫌ですからね(そういう美女OLがいたらすぐにでも紹介してください)。