ジョーン・ソーンダーズ:著/岸本佐知子:訳
体裁は140ページにも満たない短編小説。テーマとしては、民主主義、虐殺や差別、独裁といった、どうしてもいまだに人間が解決できないでいる“業”……と書くと、もう読んでるのも辛くなるような、ちょーーーー重い小説のようですが、小説そのものはまったく違います。それはあくまでも最終的な教訓でありまして、小説自体はそこへと至る寓話と申しましょうか。カラカラに乾いたユーモアで彩られた小気味いいリズムの物語がするっと終わっていきます。抜群におもしろいんで、無思慮な読解力がなさすぎる人が読んだら、ゲラゲラ笑って終わっちゃうんじゃないかってそのぐらい(それはバカにし過ぎ)。エンターテインメントといいますか読むという快楽においても充分な強度と軽やかなバネを持っております。
舞台はどこか、おそらく地球でもないどこか、そこには広大な外ホーナーとその内側に小国、内ホーナーが存在する土地。内ホーナーがどのくらい狭いかと言うと、人がひとり入れる程度という、バカのような小さいな国なのだ(ね、設定おかしいでしょ?)。もちろん内ホーナーも国というくらいだから、内ホーナー人は複数人いる。彼らはどうしているかというと、ある種の共同管理地となっている内外ホーナーの国境地域に待機し、順番に自国に出入りしているという設定(やっぱりおかしい)。登場“人”物たちもなんか小学生ががらくたで組み立てたようなポンコツ工作みたいな“人”だし(まぁ、コレは差別とか人種のアレだよなと考えることも可能)。
ここで、あるささいな事件が起き、外ホーナー人のフィルという人物が暴走し、外ホーナーを掌握、国境を巡るいざこざとともに内ホーナー人を迫害していくことになる……と、あまり書くとネタバレになりそうな短編ですが、この程度なら書いてもへっちゃらなぐらいに、その表現は奇知に富んだものであります。
その話の上手さに転がされた読んでしまうと、「よくよく考えたら」と恐怖とともに、冒頭のようなテーマが頭を襲ってくる。その感触としては星新一あたりのショート・ショートを思い浮かべて貰えれば良いかもしれない(ちょっと違うけど)。
あの弁護士市長とかあの都知事閣下とかが口にする恐ろしくバカらしい論調。あれに踊らされること、彼らがある地域の首長であることがどれだけギャグにもならない、いやむしろ笑えるほどひどい話なのかっていうのをそのまま小説にしたような話ではないかと思います。
これ、お涙頂戴な命を大切に的な話とか、悲惨さを伝えて抑止力とするような話よりも、よっぽど差別や政治といった物事を身近に理解できる教材になると思うんだよな。「してはいけない/しなくてはいけない」という決定事項を教え込む、のではなく「“なぜ”してはいけない/“なぜ”しなくてはいけない」というのを理解させる手助けというか、こういう話にしておいて、その構造から理解するというのがよっぽど重要だと思っちゃったりするわけで。それこそ中学生あたりなら理解できるレベルの話だし、しかもおもしろおかしく読めることを考えれば、まじでそういった教材にぴったりだと思いますよ。お父さん、お母さん、どうですか1冊。
もちろん、大人は読んで笑って、考えて当たり前っていう大前提でありますが。
てか岸本佐知子訳なんだから、間違いないに決まってるだろ!
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